西日本新聞 2018年10月08日 10時53分

 中国・新疆ウイグル自治区で少数民族のウイグル族がテロ対策を理由に大量拘束されているとの懸念が強まっている。国連の委員会はウイグル族などのイスラム教徒100万人以上が収容施設に送られた疑いがあると懸念を表明。中国政府は「完全な捏造(ねつぞう)」と否定するが、自治区出身のウイグル族男性は西日本新聞の取材に、厳しい抑圧の実態を訴えた。 (トルファン、カシュガル川原田健雄)
 北京から西へ2千キロ超。古くからシルクロードの要衝として栄えたオアシスの街トルファン。空路で現地入りした9月下旬、空港ロビーに入ると、自動小銃を肩に掛けた警察官から呼び止められた。「日本人か。来た目的は?」。ビザで記者だと分かると口調が一層厳しくなった。
 顔写真を撮られ、スマートフォンの電話番号を伝えてようやく解放されたが、空港を出るとなぜか電話が通じない。インターネットにもつながらない。単なる故障か、それとも当局の規制? ホテルに着くと、知らせた覚えはないのに地元政府の担当者が待っていた。以後、数人が記者に四六時中張り付いた。
 過剰とも思える当局の反応は、8月に開かれた国連人種差別撤廃委員会と無関係ではなかろう。米人権活動家の委員が複数の人権団体の報告として「推定数万人から100万人以上のウイグル族などのイスラム教徒がテロ対策名目で不当に長期間、収容施設で拘束されている」と指摘。自治区全体が「巨大な収容施設のようになっている」と訴えたのだ。
 中国側は「恣意的な拘束は一切無く、思想改造の施設もない。自治区の社会は安定し、宗教の自由も享受している」と強く反論している。だが自治区内では海外メディアへの厳しい規制が敷かれ、その実態はベールに包まれている。
 住民への監視はさらに徹底している。トルファン市街地を車で走ると「便民警務所」と称する施設が目に付く。数百メートルおきに設置され、まるで日本のコンビニのようだ。警務所の前には警棒を手にした警察官が立ち、目を光らせる。
 市街地は監視カメラだらけで、古代遺跡など観光地にも無数に設置されている。ホテルやデパート、スーパー、ハンバーガー店などあらゆる店舗の出入り口にエックス線装置が置かれ、保安要員が客全員の手荷物を検査していた。さらにウイグル族は身分証を提示しないと店に入れない。
 あまりの物々しさに驚いていると、ウイグル族のガイドが「(イスラム過激派など)悪い宗教の人たちがいるから、安全のためには仕方ない」とつぶやいた。強制収容施設は本当にあるのか、との問いかけには強く首を振った。「分からない。私に聞かないで」

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 「収容施設が捏造だなんてうそだ。私の親族は10人近くも入れられている。うち1人は海外の知り合いと連絡を取っただけで捕まった」。後日、同自治区出身のウイグル族男性が取材に応じた。
 収容施設は「技術研修センター」「言語教育センター」などの名で各地に点在。内部では民族の言葉を禁じられ、中国語で愛国スローガンを唱えさせられたり、共産党をたたえる学習を強要されたりするという。
 国連委に寄せられた報告には「両手をつながれ、狭い部屋に放置された」「眠らないよう24時間立たされた」など拷問の証言もあった。男性は「親族と連絡が取れず、詳しい状況は分からない。ひどい目に遭っていなければいいが…」と言葉を詰まらせた。
 中国政府は人工知能(AI)を利用した顔認証など先端技術による統制を強めており、「ウイグル自治区はその先進地だ」と男性は訴える。ウイグル族は「健康診断」として年2回、指紋や血液、DNAサンプルを採取され、最近は音声や瞳の虹彩データも取られるという。これらと監視カメラの画像などをAIが照合すれば、誰がどこで何をしたか容易に割り出せる。
 長いひげや顔を覆うベールなど民族衣装の着用は禁止。イスラム教は戒律で飲酒を禁じているが「当局はイスラム教徒の店にも酒の販売を強制し、教えを踏みにじっている」。手荷物検査用のエックス線装置や監視カメラなどの設置費約2万元(約33万円)は店側の負担といい、「費用を払えない小さな店で、警察官が『設置できないなら店を閉めろ』と店主を怒鳴りつけていた」と男性は明かす。
 監視はスマホにも及ぶ。警察官はケーブルでつなげばスマホ内のデータを読み取れる装置を携帯しているという。スマホには通話履歴や会話記録、キャッシュレス決済の記録などあらゆる個人情報が詰まっているが「ウイグル族は提出を求められれば断れない」
 こうした統制政策は、自治区トップの共産党委員会書記に陳全国氏が就任した16年夏以降、強まったとされる。陳氏はチベット自治区でも党委書記として分離・独立運動を封じ込めたことで知られる人物だ。
 米人権団体が中国当局の年報などをまとめた報告によると、ウイグル自治区内の逮捕者は14~16年の年2万7千~3万4千人から、17年は22万7千人へ急増。陳氏が自治区トップに就任した時期と重なる。
 男性は「ウイグル族は今やパスポートも警察に提出させられる」と話す。欧米メディアによると、統制が強まる以前に出国したウイグル族の留学生にも当局者が連絡して帰国を迫り、従わなければ「家族を収容施設に送る」と脅す事例すらあるという。「私たちにはもう逃げ場がない」。男性はため息を漏らした。

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 中国西端の街カシュガルは人口の約9割をウイグル族が占める。中国最大級のモスク、エイティガール寺院近くの職人街を歩いていると、武装した3人組の警察官に呼び止められた。「先ほど警察官の写真を撮っていましたね。お手数ですが画像を確認させてください」。言葉は丁寧だが、有無を言わせぬ雰囲気だ。
 確かにその少し前、観光地で手荷物検査の様子を撮影した。しかし、誰にも見とがめられなかったのに…と考えて気付いた。監視カメラだ。映像を分析して追跡してきたのか。警察官にスマホ画面を見せながら、相手が「不適切」と言う写真約10枚を消去した。
 それでその場は済んだが、スマホにはまだ別の写真が保存してあった。足早に立ち去ろうとすると、3人組が追ってきた。「削除した写真は復元可能ではないか。データを確認させてほしい」。スマホの読み取り装置だろうか、手のひら大の黒い機械を持っている。
 「問題の写真は完全に消した。もう何も残っていない」。必死に抗弁すると、相手はしぶしぶ引き下がった。ウイグル族なら即刻、拘束され収容施設に送られただろう。そう思うと、背筋がすうっと寒くなった。
 ●対中制裁 米が検討
 トランプ米政権は、中国政府が新疆ウイグル自治区のウイグル族を不当に拘束しているとして経済制裁を検討している。実施すればトランプ政権が中国の人権問題を巡って制裁に踏み切る初のケースになる。
 米メディアによると、国連人種差別撤廃委員会に寄せられた報告を受け、米議会の超党派議員が制裁実施を政府に要請。中国共産党幹部ら7人が対象として検討されているもようだ。収容施設の建設などに関わった中国企業も対象という。
 トランプ政権はこれまで人権問題で中国を非難することに消極的だったが、ここにきてウイグル族の問題に関心を示すのは、米中貿易摩擦の交渉を優位に進めるカードとして使う思惑もうかがえる。

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 【ワードBOX】ウイグル族
 中国・新疆ウイグル自治区の人口約2400万人の半数近くを占める少数民族。イスラム教を信仰。1933年と44年に「独立」宣言したが、49年に中国軍が進駐し、55年に同自治区が成立した。90年代以降、独立運動が活発化し「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIM)などによるテロが頻発。2009年には区都ウルムチで大規模暴動が起き、漢族ら197人が死亡した。
=2018/10/08付 西日本新聞朝刊=


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