NewsweekJapan 2017年09月02日(土)13時00分

<エジプトとトルコに宗教や民族の絆を捨てさせた中国の札束外交。スンニ派分断に喜ぶイランも巻き込む民族弾圧の悲劇>

エジプト政府は7月に入ってから、同国の名門アズハル大学に学ぶウイグル人留学生たちを相次いで拘束。中国へ強制送還を始めており、国際的な人権団体から批判されている。
10世紀に建立されたモスクをベースにしたアズハル大学は、知識人ウラマー(イスラム法学者)組織と付属の小・中・高校を包含する権威ある教育・学術機関だ。世界最古の大学を自任するこの大学は、総長の指導下にイスラム教スンニ派最大のウラマー集団を擁している。
世界から多くの留学生が集まり、アラビア語とイスラム法、イスラム学を習得しようと研鑽を重ねてきた。ここから出た学生たちの多くは、イスラム指導者として成長していく。ウイグル人学生も例外ではない。
ウイグル人は今や、かつてのユダヤ人同様ディアスポラ(離散)の状況にあると言っていい。彼らの故国東トルキスタンが中国に併合され、新疆ウイグル自治区と呼ばれているからだ。名目的には自治区だが、実権は全て入植者の漢人の掌中にある。

【参考記事】さまようウイグル人の悲劇

ユーラシア各国には大なり小なりウイグル人の亡命集団があり、最も安心して暮らせたのはトルコだった。ところが、8月3日に北京を訪問したトルコのチャブシオール外相は中国の王毅(ワン・イ―)外相と会談後、記者会見で「今後はトルコ国内の反中国勢力を取り除く」と表明。「トルコ領内で中国に敵対、または抵抗することを目的としたいかなる活動も今後は一切認めない」との態度を鮮明にした。
ユーラシアに広がるトルコ系諸民族は、オスマン帝国時代からトルコを「盟主」と仰いできた。近代のウイグル人知識人もトルコに憧れて、それに対してトルコは知識人を派遣することでオアシスの住民ウイグル人を覚醒させて近代化を促した。

20世紀にオスマン帝国は崩壊したが、ソ連のスターリン政権と中国の毛沢東政権によるトルコ系少数民族政策に対しても、近代トルコはしばしば「同胞への抑圧に注視している」と発言して反発してきた。そうした歴史的なつながりを断ち切ると宣言するかのようなエルドアン政権の媚中発言は、歴史的大転換といっていい。
エジプトとトルコをウイグル人排除に突き動かしているのは、癌細胞のように世界に広がるチャイナマネーだ。金に目がくらんだ両政府は簡単に「スンニ派知識人の権威ある学府」と「トルコ系諸民族の盟主」の地位を放棄した。陰で喜んでいるのは、シーア派のイランだろう。ウイグル人と中東の二大国とのユーラシアをまたいだスンニ派の連携を断ち切る点で、イランは中国と連携できる。

歴史的対立を巧みに利用

中国は今、国内に2100万人前後のムスリムを抱えており、その大半がスンニ派だ。その中で回族とウイグル人は双方とも800万人以上の人口を有し、ほぼ拮抗している。中国語を母語とする回族に対して、ウイグル人は政府寄りだといつも不信の目を向けてきた。事実、19世紀末からムスリムたちが中国に大規模な反乱を起こした際も、回族はよく清朝政府側に立ってウイグル人と敵対した。
イランはエジプトやトルコと対立するシーア派の国家だが、ウイグル人と歴史的に緩やかな関係を結んできた。だが中国政府も回族にイラン留学を勧めており、いまイランに多く留学しているのはウイグル人よりも回族だ。イラン留学生は帰国後、古い伝統を持つ神秘主義のスーフィー教団(門宦)の指導者になる人が多い。

【参考記事】中国、ウイグル族にスパイウエアのインストールを強制

一方、アズハル大学で学んだり、サウジアラビアでメッカ巡礼をしたりした留学生は伝統的なスーフィズムを否定し、原理主義的なワッハーブ主義の信者となってしまう傾向がある。
中国はスーフィー教団の指導者とワッハーブ主義者との間の歴史的対立を利用してイスラム教徒を巧みにコントロールしている。イランとの友好関係を維持しながら、スンニ派大国に経済援助をばらまくことで、世界のイスラム問題は一層複雑化するだろう。


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