【社説】中国のイスラム恐怖症
新疆ウイグル自治区で新たな抑圧政策

2017年 6月16日 13:52 ウォールストリートジャーナル日本版

中国政府は新疆ウイグル自治区でまたも、イスラム教の平和的な行事であるラマダンを制限している。政府職員は今年、断食などのラマダンの活動に友人や家族を参加させないよう求められている。世界ウイグル会議によると、少数民族であるウイグル民族の家庭で政府幹部が生活するケースまでみられる。
事態は今後エスカレートするかもしれない。5年にわたりチベット自治区のトップだった陳全国氏が、昨年8月に新疆ウイグル自治区の党委書記に就任したからだ。陳氏はチベットで他に先駆けて社会管理システムを導入しており、このシステムのおかげで政府は家庭を密に監視できる。
国営メディアによると、ウイグルでは2016年に治安予算が19.3%増加して44億ドルを上回り、新たに3万人の警官が採用された。陳氏は今年2月、治安が「ひどい」状況だと述べ、「テロリストやギャングの死体を人民の戦争の広大な海に埋める」よう人民武装警察部隊を促した。これでは人心をつかむことなどできないだろう。

4月に施行された過激派対策の新たな規則では、ベールや「異常な」ひげは違法とされている。親が子供に、ムハンマドといった「過度に宗教的な」名前をつけたり、イスラム教を信仰するよう勧めたりすることはできない。ウイグルの全住民が昨年後半にパスポート返還を強いられ、新規申請時にはDNAのサンプル提出が必要になった。
このほか、テロ対策訓練、治安部隊による示威行為、自動車への衛星追跡装置の設置といった動きがある。必須の活動をあえて金曜日に組み込んで生徒がモスクでの礼拝に参加できないようにしたり、ひげの男性やベールをかぶった女性を通報した者に報酬を与えたりもしている。
ウイグル人に対する管理は宗教の範囲をはるかに超えている。学校でウイグル語の使用が制限されているほか、経済的な機会は限られている。いい仕事は、優遇措置につられて移住してきた漢民族のところに行く。意義を唱えれば、ただではすまない。ウイグル民族の急先鋒(せんぽう)である中央民族大学のイリハム・トフティ教授は、分離・独立を呼びかけたとして14年に終身刑を宣告された。
09年に区都ウルムチで200人近くが死亡する暴動が起きて以来、ウイグル人が漢民族を攻撃する事件が散発的に続いている。ホータン(和田)市では今年2月、刃物を持った男3人が5人を殺害した。自宅で礼拝していた一家が罰せられた後の事件だった。大半の攻撃は衝動的で計画性は乏しいようだが、中国政府は海外のテロ集団が指示していると主張する。
だがウイグルのテロリストに対する中国の懸念は、その懸念そのもののせいで現実になる恐れがある。ウイグル人が国から逃げ、一部が過激化している。過激派組織「イスラム国(IS)」が2月に公開した動画に登場したウイグル人戦闘員は、中国の川が血で染まると脅している。中国政府の反イスラム政策は、インドネシアなどのイスラム教諸国でも反発を呼んでいる。
中国の当局者は相変わらず、ウイグルで暴力事件が起きるたびに抑圧を強めて対応している。歴史的に穏健なウイグル人によるイスラム教の平和的な活動を制限することで、中国政府は国内の安定を脅かす危険な道を進んでいる。


http://jp.wsj.com/articles/SB10450239983503033595904583210691306441414