2017.2.18 11:10 産経ニュース

「日本はすばらしい国家。中国人は天安門でデモをやればいい」と話すトゥール・ムハメットさん=9日、東京都豊島区(三枝玄太郎撮影)
「日本はすばらしい国家。中国人は天安門でデモをやればいい」と話すトゥール・ムハメットさん=9日、東京都豊島区(三枝玄太郎撮影)


自宅は人民解放軍に取られた。補償も何もありません

 --トゥール・ムハメットさん(53)の生い立ちを聞かせて下さい。

 「ええ。私は今の新疆ウイグル自治区のボルタラというところで生まれました。1981年に北京農業大に入学し、ウイグルで85年~94年まで大学講師をしていました。94年に九州大学に留学しました」

 --教育を受けることができたんですね。

 「当時の中国政府は警戒はしていましたが、今ほど敵視政策は取っていなかったんです。生家は市の中心部にありました。1960年代初頭に壊されて、5~6キロ離れた所に移住させられました」

 --なぜ、そんなことが?

 「人民解放軍のボルタラ軍区の官舎になったんです。5~6歳のころ、父がバザールによく連れて行ってくれたんですが、必ず昔の家に連れて行って『ここは昔、自分の家があって、ここに大きな庭があって、立派な家だったんだ』って教えてくれました」
 「7歳ごろにいきさつを聞いたんですよ。全ての土地は国のものだから、と言って、命令のままに隣近所バラバラに移住させられたんです」
 「我々ウイグル族の間では『遠くの親戚より近くの他人』とよく言います。バザールに行くと昔の近所の人に会うんです。子供心に自分の家のことが気になったんですね」

 --大きな家から田舎に移住させられて、生活は変わりましたか。

 「補償がほとんどなかったので、日干しレンガを自分たちで調達して、一個一個積み上げて自分の家を建てました。粗末な家でした。8歳のころ、父親が亡くなり、親戚に引き取られました。そこは工場労働者だったので、少し暮らしが良かったんです」

 --しかし、北京に行かれたんですから、さぞ頭の良い子だったんでしょうね。

 (恥ずかしそうに)「自分の人生を変えたいと思って、81年に北京農業大に行きました。ボルタラでトップの成績でないと北京には行けませんでした。大学では苦労はしなかったんですが、北京に残れと言われたんですが、故郷に戻りたかった。大学教授を目指すことにしました。政治的に圧迫されたくなかったので、農業分野を選んだんです」
 「農業施設の鶏舎やかんがい、土壌改良、病虫害の予防、排水といったことが専攻です。新疆農業大で教えていました。その後、日本の大学の先生と知り合い、私費留学で日本留学が決まりました」

習近平政権は今までにないほど圧迫、弾圧的

 --なぜ戻らなかったんですか。

 「戻るつもりでした(笑)。でも1997年2月、ウイグルのグルジャというところで、ウイグル人のデモを中国が弾圧した事件がありました。数百人が亡くなったといわれています。私は日本に来て初めて天安門事件を知ったんですよ。中国では知らせていないんです」
 「ちょうどそのころ、97年4月から(注4)ロータリー米山記念奨学会から奨学金を頂いていました。そこで福岡県のあるロータリークラブにお世話になることになったんですが、週に1回、木曜日に行くんです。そこで内々に事件の話をしてほしい、と言われまして。『絶対外に話さないから』と言われまして」

 --何だか話が見えてきました(笑)

 「虐殺の写真やビデオを持って行って、30~40人を前にしゃべりました。ところが、一部の方から文句を出まして。『なぜ中国の悪口を言うのか。中国でビジネスをやっているのに』と。

 --当時は今より中国に親近感を持つ人が多かったですからね。

 「会長さんが良い方でね。お医者さんでしたが、『それなら聞かなかったことにして下さい』と言って頂いて、それで収まりました。その後、その会長さんは私を折に触れて励まして下さって、本当によくして頂きました。ところが5~6月ころ、今度は別のロータリークラブから電話がありまして、『うちでもしゃべってくれ』と要請されたんです」

 --外に漏れてるじゃないですか。

 「ですからもう腹を決めて行きました。もう国には帰らない。帰れない、と。そこの皆さんに言いましたよ。『絶対に中国に投資しない方がいいですよ』と(笑)」

 --今の習近平政権をどう思いますか。

 「今までで一番ひどいです。これまでにない圧迫、弾圧を行っています。こんな体制が長く続くとは到底思えないのですが…」

       ◇

(注4)ロータリー米山記念奨学会の奨学金
 公益財団法人「ロータリー米山記念奨学会」が勉学、研究のため日本に在留している私費外国人留学生に対し、全国のロータリークラブからの寄付金を財源に支給、支援する奨学金。


http://www.sankei.com/premium/news/170218/prm1702180020-n1.html